近年、多くの企業で外国人社員が活躍しています。建設業でも外国人社員は増え続けています。しかし、外国人社員が退職して母国へ帰国する際、日本人社員とは異なる手続きが必要となるため注意が必要です。
手続きを怠ると、社員本人が不利益を被ったり、企業側が税務署や市区町村から指摘を受けたりするリスクがあります。
この記事では、外国人社員が退職・帰国する際に企業が押さえておくべき税金と社会保険の手続きについて、木村会計事務所が詳しく解説します。
1. 「居住者」か「非居住者」かで手続きが変わる
まず、外国人社員が日本の「居住者」か「非居住者」かによって、退職時の取り扱いが変わります。
- 居住者:国内に住所を有し、引き続き1年以上居所を有する個人
- 非居住者:居住者以外の個人
一般的に、在留資格が1年未満の技能実習生などは「非居住者」と判定されます。ここでは、多くのケースに該当する「居住者」である外国人社員が退職・帰国する場合に絞って解説します。
2. 退職時の税務関係の注意点
外国人社員が年の途中で帰国する場合、税務上の手続きが日本人社員とは異なります。
給与にかかる税金
所得税
外国人社員が帰国する際は、年末を待たずに出国時までに年末調整を行う必要があります。これにより、帰国するまでの所得税額を精算します。
住民税
住民税は、その年の1月1日に住所がある人に対して課税されるため、年の途中で帰国する場合でも納税義務が発生します。残りの住民税の支払い方法は、以下のいずれかになります。
- 退職時に一括徴収する:退職時に支給する給与や退職金から、残りの住民税をまとめて徴収します。
- 納税管理人を選任する:出国日までに住民税の納税ができない場合、社員本人が日本にいる間に、代わりに納税手続きを行う「納税管理人」を定めて市区町村に届け出る必要があります。
退職金にかかる税金
退職金を支払う際は、「退職日」に社員が日本にいるかどうかが重要になります。
- 退職日にまだ出国していない場合:日本人社員と同様に、退職所得控除が適用され、通常の税金計算を行います。
- 有給消化などで退職日にすでに出国し、非居住者となっている場合:非居住者への支払いとなるため、原則として支払額の20.42%を源泉徴収する必要があります。
3. 退職時の社会保険関係の注意点
社会保険においては、外国人社員が脱退一時金を受給できる可能性があることに注意が必要です。
脱退一時金とは、日本国籍のない社員が年金制度に加入していた期間に応じて、それまでに支払った厚生年金保険料の一部が支給される制度です。
- 請求期限:日本に住所を有しなくなった日(出国日)から2年以内です。
- 注意点:国によっては「社会保障協定」により、母国の年金との加入期間を通算できる場合があります。脱退一時金を受給するか、年金通算を利用するか、社員本人と慎重に検討する必要があります。
なお、この脱退一時金は非居住者に対する退職所得とみなされるため、上記「退職金にかかる税金」と同様に20.42%の源泉所得税が徴収されます。
外国人社員の退職手続きは、専門家への相談を
外国人社員の退職・帰国に伴う手続きは、日本人社員とは異なる点が多々あります。複雑な税金計算や社会保険の手続きは、専門的な知識がなければミスを犯してしまう可能性があります。
手続きに不安がある場合は、早めに専門家である木村会計事務所にご相談ください。外国人社員の退職手続きをスムーズに行い、企業と社員双方にとって不利益が生じないようサポートいたします。