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2025/08/15

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役員報酬はいくらが最適?税理士が解説する「900万円の壁」と事業承継リスク

所得税と法人税の税率を比較する

会社の代表者や役員にとって、役員報酬の額は重要な経営判断の一つです。役員報酬は個人の所得税と住民税の対象となり、会社の利益は法人税の対象となります。この2つの税金の仕組みを理解することが、最適な報酬額を考える上で不可欠です。

  • 所得税:累進課税が採用されており、所得が増えるほど税率が上がります。最高税率は55%にも達することがあります。
  • 法人税:所得税に比べ税率が安定しており、会社の利益が年間800万円までが約23%、それを超えると約33%となります。

この税率の違いが、役員報酬を増やして個人として受け取るか、それとも会社に利益として残すかの判断を難しくする要因です。

役員報酬「900万円の壁」の正体

インターネットなどでよく見かける「役員報酬は900万円までが有利」という説。これは、個人の所得税率が所得900万円を超えると33%から43%に上がるため、法人税率(800万円超で約33%)と比較すると、会社に利益を残した方が税負担が少ないように見えることが根拠となっています。

しかし、この900万円は額面ではなく、社会保険料や各種控除を差し引いた後の「所得」を指します。目安として、額面では1,250万円から1,300万円程度とイメージしておきましょう。

役員報酬を抑えすぎると生じるデメリット

「法人税の方が安いなら、役員報酬を抑えて会社に利益を残そう」と考える方もいるかもしれません。しかし、会社に利益を蓄積しすぎると、自社株の評価額が上がり、将来の事業承継において大きな問題を引き起こす可能性があります。

自社株の評価額が高くなると、後継者への株式譲渡や相続の際に高額な贈与税や相続税が発生するリスクがあります。これらの税金の最高税率は所得税と同じ55%にもなり、結果としてスムーズな事業承継を妨げる要因になりかねません。

資産形成を見据えた役員報酬の考え方

必ずしも役員報酬を抑えることが有利とは限りません。たとえば、所得税率が高くても、役員報酬を増やすことで手取り額が増え、その資金を資産運用に回すという選択肢も考えられます。

資産運用で得られる利益(譲渡益や配当)にかかる税率は、所得税や法人税よりも低い約20%です。役員報酬を多く受け取り、税金を支払った上で資産運用を行うことで、トータルで見た資産を効率的に増やすことができる可能性があります。